相続法が改正されます(3)
1.配偶者の居住権を保護するための方策
(1)配偶者居住権
配偶者の一方が亡くなった場合、残された配偶者は住み慣れた家に居住を希望することが多く、特に高齢者になればなるほど他の場所に移転して居住すると精神的・肉体的な負担は大きくなると言われています(引いては認知症の発症・進行が早く進む等)。
そのため、高齢化社会の進展に伴い、高齢者の居住権保護の要請が大きくなってきました。
そこで、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定の期間という比較的長期間、無償で配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利を定めたのが、配偶者居住権です。
そして、遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるものとするほか、被相続人の遺言によっても配偶者に配偶者居住権を取得させることができるものとしました。
なお、遺産分割には、協議分割のみならず、審判・調停による分割、指定分割によっても配偶者居住権を取得させることができます。
もっとも、例えば、居住不動産の所有者である夫が居住不動産を長男に相続させる旨の遺言や長男が居住不動産を相続する旨の遺産分割協議書を作成しただけでは配偶者居住権は成立しません。
したがって、配偶者居住権を知識と知っていないと、言い換えると、こういう制度があることを知っていないと残された配偶者に認められない結果となりえます。
その意味では、専門家に公正証書遺言の作成や遺産分割協議書の作成を依頼する方が良いと思います。
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(2)配偶者短期居住権
配偶者が相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた場合には、遺産分割が終了するまでの間、無償でその居住不動産を使用することができるもの、としたのが配偶者短期居住権です。
本来は、遺産分割が終了するまでは遺産は相続人の共有となるのが原則です。そうすると、遺産分割が終了するまでの間、その建物に居住していた配偶者は他の相続人に対して法定持分に応じた賃料を支払うべきこととなります。
このような結果は、残された配偶者に酷であるとして判例も配偶者の居住権保護を図るようにしていましたが(最高裁平成8年月17日判決)、判例による保護だけでは不十分なので、今回の改正で遺産分割が終了するまでの間、無償で使用できると明文化されました。
では、遺産分割により、あるいは、遺贈により、例えば、長男がその建物を相続することになった場合で、かつ、配偶者居住権が認められないときには、残された配偶者はどうなるのでしょうか。
この点、遺産分割の場合であれば、長男がその建物を取得すると確定するまでの間又は相続開始の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、配偶者はその建物を無償で使用できることになります。
遺贈の場合は、その建物の所有権を取得した者から配偶者短期居住権の消滅の申し入れを受けた日から6ヶ月を経過するまでの間、配偶者はその建物を無償で使用できることになります。
少なくとも、相続が開始されても6ヶ月は、配偶者はその建物に居住することができます。
6ヶ月という猶予期間の間に今後のことをどうするのか決めなければなりません。この6ヶ月という期間が長いのか短のかは分かりませんが、いずれにしましても、残された配偶者の居住建物についての決断をしなければなりません。
お困りの際は専門家にご相談するのが良いでしょう。