相続法が改正されます(4)

2.遺産分割等に関する見直し

(1)配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示推定規定)

 特別受益を遺産の中に回復させることを特別受益の持戻しといい、現行法ではその要件として、被相続人が持戻しの免除の意思表示をしていないことが要求されていました。

 これに対して、改正法では、高齢化社会の進展に伴い、高齢配偶者の生活保障の観点から、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について特別受益の持戻しの規定を適用しない旨の意思を表示したもの、すなわち、持戻し免除の意思表示をしたものと、推定する、としました。

 換言すると、現行法では、原則として特別受益の持戻しがなされ、持戻しの免除はその意思表示があった場合に例外として認められるのに対して、改正民法では、婚姻期間が20年以上の夫婦にあっては、持戻しの免除の意思表示があったものとして扱われるのが原則となり、持戻しの免除の意思表示がなかったことを立証すれば例外として特別受益の持戻しがあったものと扱われます。

 このとき、贈与を受けた他方配偶者がいつの時点で居住の用に供している必要があるのかが問題となります。この点、贈与を行った被相続人が死亡するまでの間にその贈与について何らかの意思表示をすることは通常考えられないため、贈与をした時点を基準時とすべきであると考えられます。

 また、居宅兼店舗について贈与があったときの取り扱いも問題となりうります。居宅については持戻し免除の意思表示推定規定が適用されますが、店舗部分については居宅兼店舗の構造や形態、被相続人の遺言の趣旨により判断が異なってくるかと思われます。この辺りは改正法が施行され、さらに争いになり、判例がでないと分からないかもしれません。

(2)仮払い制度等の創設・要件明確化

 最高裁平成28年12月19日決定により、遺産分割までは、預貯金債権は共同相続人全員の準共有状態となり、全員が共同して行使しなければならないこととなりました。

 これに伴い、事実上、預貯金の払い戻しをするに時間が掛かることになり、被相続人の財産に生計の資本を頼っていた相続人にとっては不都合が生ずる可能性が出てきました。

 この点を考慮して、家事事件手続法の保全処分の要件が緩和されましいた。

 もっとも、保全処分の要件が緩和されたといっても、家庭裁判所に対して保全処分の申し立てを行うことが前提となっているため、相続人の負担も大きく、また、例えば、葬儀代や入院費の支払いなど早期に資金が必要な場合に対応できないこともありえます。

 そこで、改正法は、預貯金債権の債権額の3分の1に払戻しを行う相続人の法定相続分を乗じた額について単独で行使をすることができるとしました。

(3)一部分割

 相続財産の一部を分割して相続人間で分けることは実務上行われていましたが、現行民法はその規定を欠いていました。

 そこで、改正法は、遺産の全部又は一部の分割をすることができると改めました。

(4)遺産分割前に遺産に関する財産を処分した場合の遺産の範囲

 本来ならば、遺産に属する財産が遺産分割前に処分された場合、遺産分割の対象とはならず、共同相続人はその全員の同意により、初めて遺産分割の対象となると解するのが判例・実務で、明文規定を欠いていました。

 そこで、改正法は、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を分割時に遺産として存在するものとみなすことができる、と定めました。

 また、共同相続人の1人又は数人により遺産に属する財産が処分されたときは当該共同相続人について同意なく遺産として存在するものとみなされる旨、改正法は定めました。

 前者については、現行法でも解釈により認められていましたが、改正法により明文化されました。

 後者については、改正法により、同意なくして遺産として存在するものとみなすとした点が大きな前進です。これにより、より公平な遺産分割の実現が図られることになるでしょう。

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