相続法が改正されます(5)

3.遺言制度に関する見直し

(1)自筆証書遺言の方式緩和

 遺言書本文は自署を要する点は改正法では変わりませんが、改正法では財産目録の全部又は一部は自署による必要がないとした。但し、この場合でも、当該財産目録の全ての頁(両面の場合には両面とも)に、遺言者自らが署名・押印をしなければなりません。

 このことから、どれほど緩和したといえるのか、何ともいえないかもしれません。

(2)自筆証書遺言に係る遺言書保管制度の創設

 高齢化の進展等の社会経済情勢の変化に鑑み、相続をめぐる紛争を防止するという観点から法務局において自筆証書遺言に係る遺言書を保管する制度を新たに設けるものです。

 この制度の効果として、家庭裁判所の検認手続が不要となるので、相続登記や預金の解約手続が早期に行われるというメリットがあります。

 その反面、申請にあたり、遺言者自らが法務局に出頭して行わなければなりません。

(3)遺贈の担保責任

 改正法では、売買等の担保責任について、法定責任説の考え方を否定し、買主等は、目的物が特定物であるか不特定物であるかを問わず、その種類及び品質等に関して契約内容に適合する物の引渡し義務を負い、引き渡した目的物が契約内容に適合しない場合はには、売主等に追完請求等をすることができることを定めています。

 遺贈と同じ無償行為である贈与においても、贈与者は契約内容に適合する目的物の引き渡す義務を前提としつつ、その契約において、贈与の目的として特定した状態の引渡し又は移転することを約したものと推定することを定めています。

 改正法では、贈与の担保責任に関する規定の趣旨を踏まえ、贈与と同じ無償性を考慮し、遺言者が相続財産に属する物又は権利を遺贈の目的とした場合には、遺贈義務者は、原則として相続が開始したときの状態で、その物若しくは権利の引渡し、又は移転する義務を負うことを定めました。

 そして、その遺言において遺言者がこれとは異なる意思表示をした場合には、遺贈義務者はその意思に従った履行をすべき義務を負うことを定めています。

(4)遺言執行者の権限の明確化

① 遺言執行者の通知義務の明文化

 現行法では、遺言執行者の通知義務については規定がありませんでした。

 しかし、相続人にとっては遺言内容及び遺言執行者の有無について重大な利害関係を有することになります。

 そこで、改正法では、遺言執行者の通知義務を定めました。

② 遺言執行者の一般的な権限

「遺言の内容を実現するため」と改正法で絞りをかけました。

 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができるとしました。

  ③ 個別類型における遺言執行者の権限内容

A 特定財産承継遺言の場合における遺言執行者の対抗要件具備権限の明確化

 特定財産承継遺言とは、遺産分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させることを定めた遺言です。

 現行法の下での登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法63条2項により受益相続人が単独で登記申請をすることができるとされています。判例も遺言執行者の登記手続き義務を否定しています(最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁)。

 しかしながら、他方でで、遺言の実現の妨害女体化での遺言執行者の当事者適格性を認めた判例が出ています(最判平成11年12月16日民集53巻9号1989頁)。

 このような状況下で、改正法において、相続登記促進の見地から法定相続分を超える部分についても対抗要件の具備を相続人に求めたことから、対抗要件主義の実行を図るため、遺言執行者に対抗要件具備の権限を付与すべきであると考えられることになりました。

B 預貯金債権についての特定財産承継遺言の場合における遺言執行者の払戻し請求又は解約申入れ権限の明文化

 現行の金融機関実務において、遺言執行者が預金の解約及びその払戻しを求めてきた場合には、これに応じている金融機関が多いと言われていることを踏まえて定められました。

 但し、解約の「申入れ」をする権限であって、強制的な解約権限を与えたものではありません。

 また、この解約申入れについては、預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限られます。

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