相続法が改正されます(6)

4.遺留分制度に関する見直し

(1)遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し

 現行法において、遺留分減殺請求権の行使により物権的効果が生ずると解されていました。これにより、遺産である不動産や株式は共同相続人間で共有関係になるとされていました。

 改正法により、遺留分に関する権利の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることとなりました(改正民法1046条1項)

 換言すると、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額の請求権へと法的性質が変わりました。

(2)遺留分の算定方法の見直し

 遺留分を算定するための財産の価額=(被相続人が相続開始の時において有した財産の価額+被相続人の贈与財産の価額)-(被相続人の債務の全額)

 なお、被相続人の遺言により、財産全部を相続した相続人が単独で相続債務を完済したとしても、共同相続人全員が当該相続債務を相続したものとして計算をします(最判平成8年11月26日)。

 相続人以外の者に対する贈与については、原則として相続開始前の1年間にしたものに限りその価額が「遺留分を算定するための財産の価額」に参入されます(改正民法1044条1項前段)。

 相続人に対する贈与については、原則として相続開始前の10年間にしたものに限り、その価額(特別受益の価額に限る)が「遺留分を算定するための財産の価額」に参入されます(改正民法1044条3項)。現行法と異なり、改正法では、特別受益に該当しなければ、「遺留分を算定するための財産の価額」に算入することはできないものと解されます。

 上記のいずれの場合も、当事者双方に害意がある場合には1年前の日より前にした贈与の価額も算入されるとしました(改正民法1044条1項後段)。

✽ 遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が,金銭を直ちには準備できない場合には,受遺者等は,裁判所に対し,金銭債務の全部又は一部の支払につき期限の許与を求めることができます。

5.相続の効力等(権利及び義務の承継等)に関する見直し

(1)相続による権利の承継に関する規律(対抗要件主義の採用)

 相続による権利の承継は遺産分割及び遺言の場合も含めて、全て法定相続分を超える部分について登記・登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができないとされました(改正民法899条の2第1項)。

 したがって、現行民法の下、遺産分割方法の指定や相続分の指定において、対抗要件は不要と判例により解されていましたが(前者につき最判平成14年6月10日、後者につき最判平成5年7月19日)、改正法の下では登記がなければ第三者に対抗できないことになりました(但し、相続放棄は改正法下でも登記なくして第三者に対抗できるとされる)。

 この理は、債権の承継についても該当します。すなわち、債務者に対しては、共同相続人全員による通知又は債務者の承諾が対抗要件となり、第三者については、確定日付のある上記通知又は承諾が対抗要件となります。

✽ 最高裁平成28年12月19日大法廷決定によって、預貯金債権は普通・定期を問わず遺産分割の対象となることになったが、損害賠償請求権、賃料請求権、報酬請求権などの金銭債権については、可分債権として当然分割されるという考え方までは否定されたわけではないと解されています。

(2)義務承継に関する規律

 現行法下では、金銭債務のような可分債務について、共同相続人間において法定相続分に応じて分割承継されるとするのが判例・通説です。

 法定相続分と異なる遺言による相続分の指定や遺産分割協議があった場合、債権者は、各相続人に対して法定相続分に従って履行を請求でき、他方、指定相続分の割合や遺産分割協議の合意内容に基づく請求もできると解するのが判例です(最判平成21年3月24日)。

 改正法では、上記判例の考え方を明文化されました(902条の2)。

(3)遺言執行者がある場合における相続人の行為の効果等(原則無効)

 遺言執行の妨害行為がなされた場合の取り扱いについて、現行法は、「遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることはできない」としています(1013条)。すなわち、絶対的無効でした。

 他方、遺言者が不動産を第三者に遺贈した後に死亡した場合に、相続人の債権者が差し押さえをしたときには、受遺者と相続人の債権者とは対抗関係に立つと解するのが判例です(最判昭和39年3月6日)。

 この考え方に立つと遺言執行者が存する場合は遺贈が優先し、存しない場合は対抗関係に立つこととなり、均衡を欠くとともに、ひいては取引の安全を害する結果となります。

 そこで、改正法は、無効は善意の第三者に対抗することができないとしました(改正民法1013条2項)。もっとも、善意の第三者側も対抗要件の具備を要するとしています(権利保護資格要件ないし権利行使要件としての登記)。

 また、相続人の債権者又は相続債権者については遺言執行者の有無を問わずに相続財産に対する権利行使を認めることとしました(改正民法1013条2項)。 

6.相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別の寄与)

 現行法の下では相続人以外に寄与分は認められない。また、寄与分も簡単には認められていません。

 例えば、長男(相続人)の妻が生前の義父(被相続人)に対して看護・介護をした事案において、長男は相続人の寄与分として主張できるかが問題となります。

 この点、東京高裁平成22年9月13日決定は、長男の妻による看護や介護を極めて厳格な要件ないし事実認定の下で、長男の履行補助者として扶養義務を超えて相続財産の維持貢献したと評価できるとして寄与分を認めました。

 もっとも、この決定によっても、義父より夫が先に死亡したときには履行補助者論が使えません。また、事務管理では不十分であると考えられます。

 そこで、改正法は、相続人以外の者でも「被相続人の親族」であれば、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払請求を相続人に対し認めることにしました(改正民法1050条1項)。

 被相続人の親族とは、六親等内の血族、配偶者、三親等以内の姻族です。但し、相続人、相続放棄者、相続人の欠格事由該当者及び被排除者は除外されます。

 特別寄与料について、各相続人と特別寄与者との間で協議が調わないとき、又は協議ができなかったとき、特別寄与者は家庭裁判所に対して協議に変わる処分を請求することができます(改正民法1050条2項本文)。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA